それでも君と、はじめての恋を



「あーじゃあ、俺行くわ。また明日っ」

「……うん、ばいばい」

「じゃーね」


森くんが横を通り過ぎたあとすぐに「腹減ったぁ~」と純の声がして、多分3人は一緒に帰ったんだと思う。


……モモなら分かるけど、純も一緒なのかな。


「あの3人が一緒に帰るって、変」

「森から七尋のこと聞きたいんじゃない?」


あ、そっか。あたしが教えないって言っても、森くんに聞けば済む話じゃん……。


「いいの? 葵は口止めしてるもんだと思ってた」

「してたよ? 純と桃井に何聞かれても言わないでってお願いしてた」

「葵との約束より男友達優先かもしれないよ」

「ハハッ! そう思うじゃん。でもホントに黙ってくれてる。純のしつこさに心折れそうって言ってた」


ちらほらとクラスメイトが帰っていく中で、葵は可笑しそうに口の端を上げる。


そう言えば昼休みに森くんに呼び出されていたけど、その時に黙ってるか確認したのかな。何を話したんだろう。


「まあ……口止めしてるのは今日までだけどね」

「そうなんだ、って……え? 今日?」


ずっと横顔だけ見せていた葵が、あたしと顔を合わせる。


「渉がバイト終わったあと、家に行ってもいい?」

「え。それは、うん。もちろんいいけど……」

「じゃあその時に話す。終わったら連絡ちょうだい。バイト頑張って」


言いながら鞄を持って立ち上がった葵に、尋ねたいことは山ほどあった。だけど葵が微笑むから。話すと言ってくれたから。言葉が口から出る前に噛み砕いて、頷いた。


「また夜に」

「うん、またね」


教室を出ようとする葵に軽く手を振って、その姿が見えなくなればダランと手の力が抜ける。


――あたしもバイト行かなきゃ。そしたら出来るだけ早く家に帰って、葵を待たないと。


「……」


胸の奥で渦巻く不安が視界にさえも影響するようで、少しくらりとした。