それでも君と、はじめての恋を



「……何事?」

「うわぁ~ナイスタイミング森っち! 葵も! このふたり止めてよ~っ」


後ろから森くんの声がしたと思ったら、純が視界から消えた。代わりに葵があたしの名前を呼んで、振り返って目を合わせるとすぐに抱き付いた。


「何……どうしたの、渉」


そう言いながら背中を撫でてくる葵はきっと、あたしの目に浮かんでしまった涙に気付いたんだと思う。


「何かねぇ~、渉が久坂って奴と遊んでぇ」

「純、アンタはあたしの視界に入ってこないで。桃井何したの、怒ったの?」

「……」

「えーっと、つまり桃井と渉ちゃんが言い争ってこの空気? ふたりが喧嘩ってめずらしいなー……ごめん、黙る」


めずらしくなんてない。きっと、ずっと、思ってたこと。心のどこかで不満を感じてたから、爆発しちゃったんだ。


……今だけじゃない。モモはいっつもそう。いつも自己完結するんだ。


自分の為なのか相手の為なのか理由すらないのか知らないけれど、自己完結に至るまでの経緯を知らないあたしからすれば、自分勝手すぎる。


モモは分かってない。モモの言い方はまるで、見知らぬ他人に突然殴られて、去られたような感じがする。


意味が分からないでしょう?

だから、見知らぬ他人が本当はどこかで顔を合わせてたのかもしれないって。


どこかで顔見知りになって、何か怒らせるようなことをしたんじゃないかって、考えない?


だけど答えは出ないかもしれないじゃん。結局分からないままかもしれないじゃん。


あたしはエスパーじゃないんだから、言われないと分からないことだってある。分かったとしても、納得できないことだってある。


それなのにモモは全部、全部。経緯も答えも何もかもあたしの想像に任せる。


言いたいことがあるなら結果論だけじゃなくてちゃんと言ってほしい。どうしてそう思うのか、何でそう感じるのか、口にしてくれればあたしだってちゃんと話し合うのに。


あんなに声を荒らげないで、モモと向き合うのに。



「……モモなんか嫌い」


本鈴が鳴り響く教室で、あたしの言葉はとても耳に残った。