それでも君と、はじめての恋を



「だったら全部言えばいいじゃん。何なの、全部って」

「自分で考えれば」


ああ、ああ、そうですか! あくまでも自分の口からは言わないと! 言わなくても分かれと!


「何様」


ボソッと呟くと、鋭さ5割増しの瞳に捕まる。だけど怯むことなく睨み返した。


本当はめちゃくちゃ怖いけど、疑われたまま逃げるなんて冗談じゃない。


「てか、何が言いたいの? 久坂さんとの関係疑ってるの? だったら、勘違いだから。思い過ごしだから」

「神経疑う」

「はあ!? バイト仲間と遊んで何が悪いわけ! 普通のことじゃんっ」

「あ~あ~! ちょっと待って違うから渉! ね! 桃井も言葉キツイから選ぼうね!」

「池田うるさい」

「ちょっ、と、嘘でしょ~……やめようよ~」


嘘でも夢でもなくて、これが現実。これが多分、本気の喧嘩。


あたしが怒ってもたしなめるか、呆れるだけだったモモが今日は応戦するらしい。


「渉は自分のことしか考えてない」

「よくそんなことが言えるよね。何でって聞いてるのにいつもちゃんと答えないで逃げるのはモモじゃん」

「逃げてないだろ」

「じゃあいつも途中で放り出すのはモモだよね」


不機嫌オーラを纏って眉を寄せるモモの怖さと言ったら、称賛に値するほど。


よりによって自分にそんな姿を一片も隠すことなく、剥き出しにされるとは思っていなかった。


「……大体、言葉足らずなんだよ。全部気に食わないとか、自分で考えればとか、神経疑うとか、それだけで通じると思ってるの? ろくに話もしないであたしが間違った解釈したらどうするの? 怒ってるんだって悟ってもらえたら満足?」

「そんなこと言ってない」

「っだからそれだよ! モモがちゃんとハッキリ言わないからあたしが考えるしかないんじゃん! バカじゃないの!?」


教室の後ろだということを忘れて声を張り上げると、シンと空気が静まりかえった。


あたしはモモから目を逸らして、歯を食い縛る。


――もうヤダ。何を言っても変わらない気がして、堂々巡りな気がして、言葉が重たくなってくる。