「……葵は結局ふたりが黙ってたことに怒ってないの?」
「怒ってるよ。でも渉が怒ってくれたから、今は怒らない」
「何それ」
「あたしが今日その場にいなくて良かったなって。どうしてたか分かんないし、泣いてたかも」
分かんないことだらけじゃんか。
昨日の今日で解決するほうが、難しいだろうとは思うけど。
「……どうするか、少しも答え出ない?」
「うん。でも、七尋から電話はあったよ。出なかったけど」
「かけ直さないの?」
「んー……まだ、ね。ちょっと無理だわ」
「――……、そっか」
別れるという選択肢はあるの?という言葉は、飲み込んだ。
もし、そういう選択肢が葵の頭になかったら、考えさせてしまうようなことはしたくなかった。
本当はちゃんと納得いくまで考えてほしいけど、今の葵は十分すぎるほどに考えていると思うから、黙った。
……これで、いいのかな。他の友達が浮気された時は、どうしてたっけ……?
「渉、今日バイトでしょ」
「え? あー、うん。そろそろ行かなきゃだ」
「じゃあ一緒に出よ。あたしも家帰るわ」
七尋くんが家に来てたりしないかな……どうなんだろ。
結局心配事は何ひとつ口に出すことなく、バイトに行く準備を始めた。携帯やポーチを適当にバッグに詰めて、部屋を出ながら後ろの葵に話しかける。
「あたしは明日遅番だけど、葵は中番だっけ?」
「うん。暫く入れ換わりの時しか逢えないね」
まあ……家にこもってるよりは気が紛れるのかもしれない。
葵はシフトさえもほとんど七尋くんに合わせたっていうのに、何だかなぁ……。



