「ふーん」
「……ふーん、って。それだけ?」
知ってたのに黙ってたんだよ?
そう目で訴えると葵はペットボトルのキャップを開けて、空になったあたしのグラスに飲み物を注いでくれる。
「まあ、心の底から知られたくはなかったけど。純の行動範囲考えれば、バレるかなーって。アイツ、女子大学生とも遊ぶじゃん」
「それは、そうだけど……」
「……我慢の限界考えれば想像つく、ねぇ……。その通りってのが癪だけど、純とも、なんだかんだ付き合い長いしね」
「あたしよりは短い」
純なんてさすがチャラ男なだけある、とかそのくらいでいいのに。
ムッとしたあたしに葵は「それはもちろん」と小さく笑った。
「黙ってたのは、ムカつくけどね。でも何か……うまく言えない感じの腹立たしさっていうか」
ベッドを背もたれにして天井を見上げる葵に、言葉の意味が分からなくて首を捻る。
「あー……何だろ、これ。渉と同じように、知ってたなら言えよって思うんだけど……」
「……」
「仮に純か桃井が教えてくれたとしても、困る」
「困る? ……そりゃ、驚きはするだろうけど……黙ってられるほうが嫌じゃない?」
「んー……何て言うかな。自分で知っても、誰かから教えてもらっても、同じかもしれないってこと」
「……何が?」
「結局どうすればいいか分かんない。昨日も今日も、それは一緒」
グラス片手に苦笑した葵に、心の中で「そっか」と相槌を打った。
だけどやっぱりあたしは、黙っていたモモと純に笑顔を向けるのはまだ無理そうだった。
『ふたりの問題』
『怒るのは分かるけどぉ』
モモと純が言いたいことは何となく分かる。分かるけど。せめて、あたしにだけでも教えてくれれば良かったのに。
聞けばきっと、そんなはずないって、事実を確認してからって、凄く迷うだろうけど。あたしだったら絶対に葵へ伝えた。



