それでも君と、はじめての恋を





「ただいま」


部屋に入ると、葵は布団の中から「おかえり」と返してくる。


「帰ってくるの早くない?」


体を起こした葵は目を擦りながら近くにあった時計を見て、あたしは肩を竦ませた。


「ダルいんだもん。暑いし、宿題終わってないし」

「……何かあったの?」


鞄を置いてクローゼットを開けるあたしに、葵はベッドに腰掛けながら聞いてくる。


「……男の子って冷たい」

「は? 何、急に」

「ッモモがムカつく! モモっていうか純っていうか、とにかくムカつく!」

「……意味が分からないんだけど、何、喧嘩でもしたの?」

「……」


言うべきか、言わないべきかなんて、帰り道でとっくに決めていた。


あたしは恥ずかし気もなく葵の前で制服を脱いで、私服に着替える。今日は昼から、バイトが入っていた。


「七尋くんが浮気してたこと、知ってたんだよ」


閉めたクローゼットから葵に顔を向ければ、驚きに見開かれた瞳と目が合う。よくよく見ると、葵の目は少し腫れていた。


「……とりあえず飲み物持ってくる。ご飯は? 何か食べる?」

「あー……うん、ありがと。適当でいいよ」


こんなに腹が立ってるのにお腹は空くんだから、人間ってめんどくさい。


階段を降りながらそんなことを思って、ふたり分の食事と飲み物を取りにキッチンへ向かう。


再び部屋に戻ったあたしは、教室であったことを洗いざらい葵に話した。


七尋くんが浮気していたことを、純とモモが知っていたこと。何で教えてくれなかったのかと、詰め寄ったこと。


会話のやり取りも出来るだけ細かく、全て葵に説明した。


そんなに長い時間は掛からなかったけれど、延々と話し続けたあたしは疲れて、飲み物を一気に喉へ流し込む。


それに、葵に説明することで余計に怒りが募った気がした。