「ほんじゃあ、やっぱ森は間接的に関係あるだけで悪くないよねぇ。……ね、渉。怒るのは分かるけどぉ」
「純は黙ってて!」
「……あんなやり方じゃ、いつかはバレてたよ?」
知らないよ浮気の仕方なんて。純は前々から知ってたのかもしれないけど、あたしは、葵は、昨日知ったんだから。
「何で教えてくれなかったの? いつから知ってたの?」
「……渉、」
「聞いてるんだから答えてよ……っ!」
宥めるようなモモの声ですら煩わしくなってくる。
飄々とした純の物言いも、森くんの申し訳なさそうな視線も、何事かと見てくるクラスメイト達のヒソヒソ声も。何もかも全部一緒に纏めて捨て置きたくなる。
「渉が今怒ってもしょうがない」
「じゃあモモは何とも思わないの!?」
「……そういうことじゃなくて……」
お互い眉を寄せて険悪な空気になった時、森くんが「ストップ!」と割って入った。
「あー……何て言うか、俺が言うのもなんだけど」
「森は悪くないだろ」
「いやー……うん、桃井がそう言ってくれるのは有難いけど、一旦落ち着こう! な! ダメ!?」
ダメも何も……。
「黙ってた理由を話してくれないと納得出来ないんだけど」
そう言ったあたしをモモは黙って見てくるだけで、質問に答える気はないんだと思った。
「あ~もう……渉ぅ~」
くるりと皆に背を向けたあたしは机のフックから鞄を取って、誰の目を見ることもなく歩き出す。
「ちょ、渉っ!」
「帰るの!?」
喧嘩だと察していたんであろうクラスメイトの気遣うような声にも反応せず、教室を出れば図らずも安部ちゃんと目が合ってしまう。
「何だ矢吹、鞄なんか持って。今から――…」
「気分悪いから帰る」
「はあ!? 待てオイ! 矢吹っ!?」
教室の中とあたしを交互に見る安部ちゃんも無視して、足早に階段を降りた。
最悪な気分の渦中。あたしはモモの隣にすら、いたくなかった。



