「……知ってた」
「なんで教えてくれなかったの!?」
噛み付くように言ったあたしにモモは困った顔をするだけで、近くに物があったら投げ付けたくなるほど怒りが湧きあがる。
何? なんで? なんで知ってたのに、黙ってたの?
あたしがここで、この場所で、葵とどれだけ七尋くんの話をしてたか、モモなら知ってるでしょう?
「――信じられない」
そう呟いたのとほぼ同時に、森くんが登校してきたのを視界の隅に捉える。
「みんなおはよー、……え? あれ?」
机に鞄を置いた森くんは、ただならぬ空気を察知したのか戸惑いを見せた。けれどあたしは大股で森くんに近付いて、その腕を掴んだ。
「森くんが話したの!?」
「え!? な、何が……あ。昨日のことなら誰にも……」
言ってないと手を左右に振る森くんに安堵する暇もなく、掴んだ腕に力を込めた。
「ねえ、森くんは知ってたの? 七尋くんがしてたこと知っててもおかしくないよね? 知ってたなら何で葵のこと――っ」
森くんに詰め寄るあたしの肩を、誰かが強い力で後ろに引いた。
振り向かなくても気付いていたけれど、あたしを見下ろすモモが眉を寄せているとは思っていなかった。
「……何? 止めてるの?」
「森は関係ない」
「関係なくないから聞いてるんだよ!」
もう自分でも訳が分からない。森くんが、七尋くんの浮気を知っていたなら、葵を家に入れてほしくなかった。そしたら葵は浮気現場なんて見なくて済んだのに。
だけど、浮気の事実を知ってた純とモモが黙っていたことにも納得がいかない。
「……森のこと責める気じゃないの」
冷静に紡がれるモモの言葉に、あたしは聞く耳を持てそうになかった。
「仮に森が関係あったとしても、ふたりの問題で。森を責めるのは違う」
むしろ感謝すべきだとでも言いたげなモモ。だけど正論でどうこう出来る心境じゃない。
正論を言われてハイその通りですねなんて言えるわけがないと思うのは、あたしだけなの? あたしが子供なだけなの?
「……ま、どうやってバレたかなんて葵の限界考えれば大体想像つくけどねぇ。森、その場にいたんだ?」
「え。えっと……まあ、詳しくは言えないけど……」
チラリとあたしを見てから曖昧に答える森くん。七尋くんが浮気してると知っていたのに黙っていたモモと純。



