「ヒドくない? なんで葵が休みで渉がそんな不機嫌なのさ~。教えてくれたって良くな~い?」
「あーもーうるさいっ! 考え事してるんだから邪魔しないで!」
両耳を塞いで眉を寄せても、純はムッとするだけであたしの前からいなくならない。そしてしつこい。
「ね~! なんで? 葵は~っ!?」
「だから休みだってば! あたしの家にいるのっ!」
「え~意味わかんない。なんで渉の家にいんのさ」
「だから昨日っ……あたしの家に泊まりに来たの! で、朝起きたら体調悪いって言うから休みなの!」
目をぱちくりとさせる純から顔を逸らして、これ以上話すことはないと言うように窓の外を見つめた。
昨日の今日で言えるわけないじゃん。
あたしが口にすることでもないし、葵が浮気されてたなんて、本人だって言ってほしくないと思う。
「……もしかしてぇ、ついにバレた?」
窓の外を見て視界から純を追い出していたあたしは、目を見張る。
「……は? 何が?」
顔をしかめて振り返れば、純は笑みを消してぽりぽりと首筋を掻いていた。
「葵の彼氏が、浮気?」
ざわりと胸が騒いだのは、何も純が知るはずのない事実を口にしたからだけじゃない。
机に頬杖をついていたモモが眉を寄せて、口を覆ったあと視線を落としたその仕草に、違和感を覚えたからだった。
「……何? は?」
「違うの? 図星なら、葵が休みで渉が不機嫌なのも納得なんだけどなぁ~」
「――ちょ、っと! なんで!?」
ガタンッ!と席から立ち上がったあたしにふたりの視線が突き刺さる。
……待ってよ。なんで純がそんな平然としてるの? どうしてモモは、少しも驚いてないの?
なんかの冗談でしょ? 嘘でしょ? ふたりとも――……。
「知ってたの……?」
純が知ってるのは分かった。なんでかは、今は、置いといて。
モモまで知ってる可能性がある理由が分からなくて、あたしは席に座ったままのモモを見下ろした。



