それでも君と、はじめての恋を



どんな風に触れ合っていたのかなんて分からないけど、キスをしていたならそれは決定打だ。あたしにとっても、葵にとっても。


友達だよ、ふざけてただけだよ、と仮に言われたとして、納得なんて出来ない。


七尋くんは驚いてしまったんだから。葵が、自分はこんな風に思われていたんだと感じてしまったんだから。


例えそれがなくとも、七尋くんが葵以外の女の子とキスをしていたら、あたしだって浮気だと判断する。


純みたいに最初からだらしない男ならまだしも、七尋くんが、なんて有り得ない。想像したこともない。


だから今、あたしでさえどう反応すればいいのか分からなかった。


葵が言っていることを信じていないわけじゃないのに、あの七尋くんが?と拭えない疑問が残る。


「……葵。黙って、帰ってきたわけじゃないんでしょ?」

「――出来たら、そうしたかった、けど……」

「うん」

「無理でしょ。何してんの?って、その人誰?って、嘘ついて、どういうこと?って、捲し立てるように聞いたよ」


「知りたくもないのに」と付け足す葵は顔をしかめて、それでも口の端は上げる。


「でも七尋、黙るんだよ。黙られると余計……ムカつくっていうか、何なの?って思って、そしたら女が、バレちゃったねとか言って……ああこの人はあたしと七尋が付き合ってることを知ってたんだって……笑えるでしょ」

「っ笑えないよ!」

「だって!」


床に吐き出すように声を荒げた葵にグッと奥歯を噛み締めると、吐息ともつかない息が漏れた。


「だって……言い訳くらいすればいいのに、ゴメンって……七尋、何回もゴメンって謝るんだよ……」


認めてほしくなかった。

そう、俯く葵が全身で訴えているみたいで。謝罪よりも言い訳が聞きたかったと、言っているみたいで……。

それはあたしが、葵は七尋くんのことが凄く好きだってことを知っているから感じることなのかもしれない。


「……そんな、忙しいもんかなって、思ってたけど……そりゃ二股してたら忙しいわ」

「――っなんで!? なんで七尋くんが……理由は!?」


テーブルに身を乗り出す勢いで聞いても、葵は俯いたまま首を横に振るだけ。