それでも君と、はじめての恋を



いつも一緒にいる純なんて眼中にないだろうし、付き合う前に誤解されたことはあったけど……誤解が解けたあと、何て言われたんだっけ?


「渉ー。できたよ」


記憶を手繰り寄せていると、お母さんが声を掛けてきた。見ると、ダイニングテーブルには湯気が立ち上るお皿の数々。


「わーっありがと! お腹空いたー」

「ふたりは? もう夕飯済ませてきたの?」

「あ、いただきまーすっ!」

「俺も食うかなー」


あたしに続いて佐野くんとおにぃも椅子に腰掛けて、テーブルにはすぐ2人分の夕食が追加された。


「俺これ超好き!」


佐野くんが指差した白いプレートを見ると、乗ってるのはミニトマトとポテトサラダに一口サイズのかぼちゃコロッケが3つ。


「あー、そういや佐野ってウチのコロッケ好きだよな」

「最高にうまいじゃん! 絶品だと思うね」

「嬉しいわぁ。ありがとう佐野くん」


照れるお母さんを見ながら絶品と言うほど美味しいかと首を傾げるけど、そういえば中学の給食やスーパーで買ったかぼちゃコロッケを食べた時に、心の底から不味いと感じたことを思い出した。


おふくろの味ってやつ?

それとも、美味しいけど食べ慣れてるから分からないだけで、実は売れば大ヒットになるほど美味しいとか。

……いやそれはないな。


「ていうか渉、まだ夏休みじゃなかったんだな」

「終業式、明後日だもん。大学生は夏休み長くていいよね」

「「まあなー」」


口を揃えるふたりを本当に羨ましいと思いながら、佐野くんに褒められたことで鼻歌まで歌っちゃってるお母さんを見つめる。


それから壁に掛かるカレンダーを見て、あと3日で夏休みが始まるんだと実感した。


モモは家の手伝いがあって、あたしもバイトを始めて、遊ぶ約束はしてるけど……モモとは当たり前に会えなくなる。


今日みたいに突然会いたいと言ったら、モモは会いに来てくれないのかな。


「……」


考えてもしょうがないから、とりあえず。


夏休みが始まる前にひとつ、モモのつれない態度を崩してみるのも悪くないんじゃない?