「あ、また明日ね!」
電車を降りた桃井くんに声をかけると、大きな背中が振り返る。
「……またね」
無表情のままそれだけ言って、桃井くんは歩き始めた。
閉まったドアに手を付いて、桃井くんの後ろ姿を見つめた。
雪の白さの中で一か所だけ、ピンク色。その光景に、自然と口元が緩む。
「――……」
振り向いた……。
桃井くんが、走り出した電車に振り返った。手を振るわけでもなく、改札口に歩く人々の中でひとりだけ立ち止まって、こっちを見ていた。
手を振るのも変かと、あたしも何をするわけでもなくその姿が見えなくなるまでドアの窓に張り付いていた。
……またね、だって。
桃井くんが見えなくなると急に力が抜けて、空いていた席に深く座りこんだ。