「送る」

「……」


モモがそう言ったのは聞こえたけれど、今度はあたしが壁と向き合ったまま微動だにしなかった。


――今……何か、おでこに…………え?


視界の隅でモモがあたしの鞄を持って部屋を出て行ったところで、一気に顔が熱くなる。


「モッ、モモモ、モモッ! ちょっと!」


何ですぐ逃げるかな!


「今! 何!?」

「うるさい」

「うるっ……! だって今!」

「湊が起きる」

「おでこにキッ……!」


ぐるんと振り返ったモモは思い切り眉間にシワを刻んで、その鋭い瞳で黙るように牽制してきた。


だけど物凄く気恥しそうで、あたしなんか真っ赤で、きっと今お互いに触れたら反発する磁石みたいに吹っ飛ぶと思う。


「う、あ、えっと、も……」


いやもう1回はさすがに無理だ! さすがにねだる勇気はない!


「……、……っ」


パクパクと口を動かすだけで何も言わないあたしを、眉を寄せたモモは手の甲で口を覆いながら見返してくる。


その、手の、後ろに隠れてる、口が……ぎゃあ! 何考えてんのあたし!

違う、そうじゃなくて。もう1回ってねだらないなら、もっとこう、別の……感想とか? 言うべき?


「あ、の……」

「いい」

「え?」

「何も言わなくていいから……ほんと」

「……」


いつのまにか顔を背けて遠くを見るモモの頬はうっすらピンク色で、心の中では何を考えてるんだろうって思った。


あたしはテンパッてたけど、何か、いっぱい考えてて。本当は心の中で、うわぁあああって叫んでたりして。顔は熱いし、心臓の音だってうるさくて。


だけどこれっぽっちも嫌じゃなくて。目の前にいるモモにドキドキして。


これ以上ドキドキできないって思うと、胸がぎゅーって何かを絞り出すみたいに苦しくなって……ほら、また。


好きの気持ちが零れて、沁み込む。