桃井くんがまた流れ始めた景色に視線を移すと、速まっていた鼓動が落ち着き始める。


……び、びび、びっくりした……!!


急に笑うから、どうすればいいのか分からなかった!


前髪を手櫛で横に流してから、窓の外を見つめる桃井くんの名前を躊躇いがちに呼んだ。


髪の隙間から見える瞳にあたしが映ると、無意味にドキッとしてしまう。


「も、桃井くんはいつも、この電車なの?」

「うん」

「あたしも。いつもはね、もうちょっと遅いんだけど、今日は友達が彼氏とデートでひとりなんだ。桃井くんの降りる駅ってどこ?」

「中央」


中央……ってことは、あたしより先に降りるのか。


「じゃあ、次だね」


そう言うと、ほぼ同時にアナウンスが流れた。ゆっくり止まる電車に、桃井くんはカバンを肩に掛け直す。


プシューっと空気が抜けるような音と共に、ドアが開いた。