それでも君と、はじめての恋を





「へーっ! スイミングスクール通ってるんだ」

「うん。今ね、ビート板なしで泳ぐ練習してるのっ」


宿題をする湊ちゃんは隣に座るあたしを見上げて笑う。


午後6時過ぎ。結局あのまま湊ちゃんと犬モモと一緒に、リビングで過ごしていた。


「んー……」

「分かんない?」

「ここ……」


指差す湊ちゃんに「どれどれ」なんて言いながら算数の教科書を覗いたあたしは、出題文を読んでホッとする。


さすがのあたしでも小学1年生の問題は分かる。


「うーんと……コレはね」


しかしまあ、人に教えるって難しいんだな。


いくら答えや解き方が分かっていても、答えそのものを教えちゃ湊ちゃんの為にならない。


センスすら必要な気がしてきた。今まで教えてもらう側だったから、改めてモモってすごいんだなと思う。


あたしが1回の説明で理解できなくても、別の言い方でサラサラ教えてくるもんなぁ……。


下手くそながら説明をしていると湊ちゃんは時たま不安げに「こう?」と自分で解いていき、出した答えは正解だった。


お喋りを挟みつつそんなことを繰り返していると、キッチンから何かを炒める音が聞こえてくる。


「……」

夕飯時、キッチンに立つ彼氏ってどうよ。


チラチラと盗み見るあたしの胸の奥は、胸キュンしすぎて黒焦げになっているに違いない。


「おわったぁー!」

「おー! やったね!」


湊ちゃんとハイタッチしてからノートと教科書を確認すると、出された宿題はちゃんと全て終わっていた。


「偉い偉い。頑張ったねー」

「おしえてくれてありがとうっ」


そんな無邪気な笑顔を向けられたら照れるじゃないの。


「おにいちゃん! 宿題おわったーっ!」


開いたノートを掲げてキッチンへ走る湊ちゃんにモモは顔を上げて、妹の姿を目で追い掛ける。


モモは手を休めることはなかったけど、湊ちゃんとの会話の節々で柔く目を細めることが多かった。


そのあとモモは一度だけあたしに視線を移して微笑んでくれたけど、思わず見惚れてしまって何も返せなかった。