それでも君と、はじめての恋を



「信じられない……」


そう言いながら、あたしはあの時を思い返していた。


『モモって呼んでいい!?』


あたしがそう言ったあと、モモは確かに笑ったんだ。


『くくっ……ふ、モモって……』


初めて声を出して、笑った。
笑った顔が可愛いと思っただけで、どうして笑ったのかは分からなかったけど……。



「気にしすぎ」


気付くとモモはあたしと同じ目線にいて、湊ちゃんにワンコを抱かせていた。


「……モモ、何であの時笑ったの」

「あの時?」

「モモって呼んでいい?ってあたしが聞いた時」

「ああ……」


湊ちゃんが不思議そうにしてる中で、モモは思い出したのかさらりと言ってのける。


「渉が必死だったから」

「……」


あたしを見ずにペットを撫でながら言うモモは、本当によく分からない。


そんな理由で? あたしが必死だったら、何でも許すの?


……なんて、考えても無駄か。嫌なことはちゃんと嫌だと言うモモだから、本当にそんな理由でモモと呼ぶことを許してくれたのかもしれない。


「ペットと同じ名前で呼んでごめんね」

「いいって」

「……混乱するから犬モモって呼ぶ」

「フッ……!」


即座に顔を背けて吹き出したモモは何がそんなにツボなのか。モッちゃんとかの方が良かったかな。


「……おにいちゃんも、モモって呼ばれてるの?」

「あー、うん。渉にだけ」

「じゃあ、おにいちゃんは渉ちゃんのペットなの?」

「ブハッ! ハハッ! ご、ごめ……」


思わぬ威力を持った湊ちゃんの発言に今度はあたしが吹き出すと、「そうきたか……」なんてモモは呑気に言って、湊ちゃんは「カレシじゃないの?」と更に突っ込んでくる。


そんな妹に向き直ったモモはとても真剣な顔をして、あたしが見る限りお兄ちゃんの顔だった。


「湊、あだ名って分かる?」


そのあと暫く湊ちゃんへの説明が続いたのは言うまでもなく。

その間のあたしといえば、モモのお母さんもアクセサリーショップの店長さんも、愛くるしい犬モモのことがあるからあんなに笑ってたんだろうなと思っていた。