それでも君と、はじめての恋を



「髪きれい! ガイジンさんみたいっ」

「ありがとう~。湊ちゃんのお母さんにやってもらったんだよ。湊ちゃんも可愛い髪型だね」


頬を染めて恥ずかしそうにしながらも、湊ちゃんはあたしの腕を揺らして「あのね」とはにかむ。


「今日ね、渉ちゃんくるっておにいちゃんに聞いててね、たのしみにしてたの」

「えぇ~ほんと~? あたしも会いたかったから嬉しいよ~えへへ」


デレデレしずぎだと自分でも分かっているけど、頬の筋肉は完全に緩んでしまってどうにもならなかった。


「でもね、ジャマしちゃダメって思って部屋にいたんだけど……」


突然しゅん、と俯いた湊ちゃんに首を捻ると、湊ちゃんはチラリと窺うように視線をあげる。


「トイレ行った時にモモが部屋から出ちゃったの……ごめんね」


邪魔しちゃダメって、小学生なのにそんな発想が出来るのかと感心してると耳を疑う単語が含まれていたことに気付いた。


「……ん? モ、モモ?」


聞き返すと湊ちゃんはコクンと頷いたけれど、あたしの頭の中は否定的な言葉で埋め尽くされていた。


「モモ」

「…………」


湊ちゃんが指差した先に何がいるかなんて、見なくたって分かってる。


「えっと……それは、もしかして……ワンちゃんのこと、かな?」


再び頷いた湊ちゃんに、あたしは目だけを横へ向けて確認する。可愛い可愛いワンコの名前が……。


「モモっていうの」


誰か嘘だと言ってくれてもいいよ……?


「ごめんね、渉ちゃん」


いやあたしの方こそゴメンナサイだよね。湊ちゃんのお兄ちゃんペットと同じ名前で呼ばれてるからね。


「どっちが先なの……」


いつの間にか近くにいたモモを見上げると、口を押さえていた手を外してモモは言い放つ。


「犬が先」

「ちょっとぉおおお! 言ってよ! あたしすっごい失礼じゃん!!」

「別にいい」

「良くないんですけど!?」

「……桃井家の犬だからモモ」

「そんな情報求めてないっ!」


半分泣きそうになってるっていうのに、モモは何が可笑しいのか口の端を上げた。


すぐにコホッと咳き込んで誤魔化したつもりだろうけど、ばっちり見たからね。