それでも君と、はじめての恋を



両手が塞がってるモモは数歩前に歩いたり後ろに歩いたりしてかまってあげると、機敏な動きでついて来るワンコに少し笑っていた。


ポメラニアンとモモ……ポメラニアンとモモ……。ドーベルマンじゃなくて良かった。


「あ、名前は? オス? メス?」

「……メス、……」


顔を上げたモモの動きが止まって、どこを見てるのかと振り返れば廊下に続くドアを見てるらしかった。


「うん?」


特に変わったことはなかったドアがどうかしたのかと見上げると、モモはあたしを見下ろす。


「湊」

「えっ!?」


勢い良く振り返っても先程と変わらず、女の子の姿なんてなかった。


湊って、湊ちゃんだよね!? モモの妹……!


じーっとドアを見ていてもやっぱり湊ちゃんは出てこなくて、部屋に戻ったのかなと眉を下げる。


するとモモがグラスを置いて、ついて行こうとするワンコに「待て」と言ってからドアの方へ歩き出した。


「……」


モモが廊下へ出てから数十秒。あたしの隣ではワンコが大人しく待っていて、微かな話声が途切れたと思ったら湊ちゃんが姿を現した。


モモの足を掴みながら不安げにこちらを見てる瞳はぱっちりとしていて、手触りの良さそうな黒髪はツインテールに結ばれている。


「こんにちは……」


ポソッと囁くような湊ちゃんの声は確かに届いていたのに、あたしはすぐに返事が出来なかった。


……大声で叫んでもいいだろうか。

めっちゃくちゃ可愛い!


「こんにちはっ! やっと会えたね!」


笑い掛けると湊ちゃんは驚いた顔をして、モモを見上げてあたしを見つめて戸惑っている。だけどモモに背中を押された途端、笑顔であたしの元へ駆け寄ってきてくれた。

もうそれだけであたしの胸キュンメーターが振り切りそう。


「わ、渉ちゃんっ」


くぁー! 可愛いぃぃいい!


しゃがみ込んでいたあたしの腕に小さな両手を置いて、キラキラとした瞳で見つめてくる湊ちゃん。


ダメだこれ誘拐される可愛さだ。モモの妹とか絶対嘘でしょってくらい似てない。