それでも君と、はじめての恋を



「モモは夏休みも家の手伝いするよね?」

「まぁ、うん」


稼ぎ時というか、夏休みを利用しない手はないかもしれない。


「……優木でも誘えば」

「ん?」


色々考えていると、モモがグラスを2つ持ってキッチンから出てくる。


「バイト。変なとこじゃなきゃいいと思う」

「……」


変なとこじゃなきゃ、って。むしろ初めてのバイト先で変なとこ選ばないよって感じだけど……まさか心配してくれてる?


何の? ちゃんとバイト出来るかって? それとも……。


「へへ。大丈夫」


ヘラリと笑ったあたしの考えに気付いてるのか気付いてないのか、モモは無言でグラスを差し出してくる。


モモ一筋だからバイト先にカッコイイ人がいても大丈夫、なんてね! なんてね!


「ぎゃあ!!」


ひとりで盛り上がってたあたしのふくらはぎに得体の知れないものが触れて、お腹の底から声が出る。


「何なに!? 何かモフッとし、た……」


ドタバタと足踏みをして下を確認すると、ハッ、ハッ、という息使いと共に舌を出しながらあたしを見上げる黒い瞳と目が合った。


「……」

「あー……飼ってる犬」

「~っ可愛い! そういえば犬飼ってるって言ってたね!」


急いでしゃがみ込むと、逃げることもなくパタパタと尻尾を振ってくれる。手を伸ばせばお座りをして、難なくオレンジ色の毛を触らせてくれた。


「何犬!? ちっちゃい~! モフモフする~!」

「……ポメラニアン」

「お手!」


しっかり前足を出してくれて、あまりの可愛さに失神寸前。


「すごいね、全然吠えない!」

「番犬じゃないから」

そういうことじゃなくて。


モモに駆け寄ったワンコはグラスを2つ持ったご主人様を見上げて、尻尾を振った。左右に動く小さなそれは、遊んでと言ってるみたい。