それでも君と、はじめての恋を





「お会計なんてしないわよ」


全ての施術が終わってレジのある受付でカバンを受け取り、財布を取り出した途端言われた言葉に衝撃を受ける。


「や、いやいやいや……! そういう話じゃなかったはずですけど!」


練習台じゃなくて、ちゃんとお金を払うという約束で来たのに! お会計しないって何だ!


「律儀ねー。ていうか最初からお金取るつもりなかったわよ? 寶が何て言って連れてこようとしたかは知らないけど」

「……お金は払うという約束を」

「渉ちゃんだーまさーれたーっ」


プッと笑いながらあたしを指差すお母さんに、何て言うか、純に感じるものと同じものが込み上げた。


だからかもしれない。何を言っても無駄だと思うのは……。


「ほらほら、財布なんかしまいなさい」


うぅ、と眉を下げながら財布をカバンにしまって、ちらりとお母さんを見る。


「……ありがとう御座います。ほんとに、良くしていただいて」

「ん。素直に好意を受け取る子は好きよー。こちらこそ、来てくれてありがとうね」

「いえ。次は、ちゃんと払います。ていうか払わせてくださいねっ」

「えー。どうしよっかなー」

「払いますってば!」


ケラケラ笑うお母さんに調子を狂わせられながらも、最終的にはあたしも笑っていた。


「ま、息子の彼女を可愛がる分には割引とか大目に見てね。きっちりブン取ってたら私が寶に怒られちゃうから。……生意気よね」

「あはは! モモって家では怒るんですか?」

「怒るっていうかねぇ……こう、不機嫌オーラを纏うのよ。無言の敵意というか」


ああ、それはちょっと分かる。


「昔ね、湊に私が作った料理食べさせたことあるんだけど、あまりにも不味かったのか泣かれちゃって。その時ちょうど寶が学校から帰ってきたんだけどね? 目力だけでテメェなんてもん食わせてんだよって言われてるのが分かって……あら、おかえり」

「あ、おかえりっ」


振り返るとモモが赤いドアから出てきたところで、その表情はどことなく嫌そう。