それでも君と、はじめての恋を



お母さんは少なからず後悔をしてるのかもしれないけど、幼少期の環境が今のモモをかたどったのならあたしは嬉しく思う。


あんなモモだから興味を持って、惹かれた。


「――……」


ふわりと風が吹いたように心の奥底に何かが芽生えて、ジッと鏡に映るモモのお母さんを見つめる。やっぱりどこか、申し訳なさそう。


「湊が産まれてからは尚更。赤ちゃんの頃はまだマシだったんだけど、大きくなってからは……頼りすぎちゃって、ダメね」

「でも、湊ちゃんのことすごい可愛がってますよね。湊ちゃんもお兄ちゃん大好きですし」

「……そう言われると救われるわねー」


お母さんはトップの髪を留めていたヘアピンを取ると、手櫛であたしの髪を整えてから鏡でも確認する。違和感なく綺麗に付けられたエクステには、とっくの前から満足していた。


「あたしも大好きです」

「……」

「あのままのモモが、すごく」


言ってる内に恥ずかしくなって頬に赤みが差したけど、少し目を見開くお母さんに微笑んだ。


「葵と純っていう友達も、ここに来たがってました。夏休みも4人で遊ぶ約束してるんです」


あと森くんのことと、唯一モモに怒れる教師が担任なんだと言おうとしたけれど、それはお母さんの大きな笑い声に消されてしまった。


「嬉しいんですよ」


こっそり耳打ちしてきた牧野さんは「艶出ししますね」と言ってスプレー缶を持って髪に噴き付けてくれる。


「ほんとにモモって呼んでるんだ……!!」


そこに笑ってたんじゃん!

……いや、忘れてた。モモって言わないように気を付けてたのに、うっかり言っちゃった……。


謝ったほうがいいかと思ったけど、本当に可笑しそうに笑ってるから、まぁいいかなと口を閉じた。


するとお母さんはポンとあたしの両肩に手を置いて、鏡越しに息子の彼女を見つめてくる。


「うん、可愛い。これからも寶と仲良くしてやってね」

「――っはい!」


そう返事をすると、とびきりの笑顔を見せてくれた。


良かった。恥ずかしかったけど、モモが好きだって伝えて、良かった。