それでも君と、はじめての恋を



「もしかして寶……渉ちゃん迎えに行く予定だった?」

「……昨日そう言っただろ……」

「あれ? そうだっけ? やっだぁ、もう! てっきり渉ちゃんがひとりで来るもんだとばっかり……ごめんなさいねーっ、渉ちゃん!」

「は、はは。いえ、大丈夫です……」


全く微塵も大丈夫じゃなかったけど。


「でもほら、見ての通り渉ちゃん時間通りに来てくれたから。良かったわねー肝の据わってる優しい彼女で! お母さんだったらアンタのこと殴るけどね」


ケラケラと笑うお母さんに、心なしかモモはやつれてる気がした。もう本当に黙ってくれないかとでも言いそう。

言わないで目を背けるあたりがモモらしいけどね。


「さっ! 渉ちゃんはエクステ付けよう! 寶は邪魔だから上戻って。湊のことよろしくね」


言うだけ言って去っていくお母さんにモモは溜め息をついて、再びあたしと視線を交わらせる。


「ごめん……色々」

「……ううん。大丈夫」


何て言うか、モモに怒る気なんてお母さんの勢いで吹き飛ばされてしまった。


モモの苦労をちょっと垣間見ちゃった気分だよね。


「……俺、湊の飯作ったりしなきゃだから」

「今日もお稽古に連れてくんだっけ?」

「渉が終わった頃には戻ってると思う」

「分かった。行ってらっしゃい」


元々あたしが施術してる間モモは家で待ってる予定だったから、軽く手を上げる。


まだ申し訳なさそうだったけれど、モモは「行ってきます」と口にしてドアの向こう側へ消えた。


……店と家が繋がってるのかな。じゃあ2階がモモのお家か。


階段を上る微かな音はすぐに消えて、あたしは軽い歩調で席へと戻った。