それでも君と、はじめての恋を



お手洗いから出てすぐにドッタンバッタンと荒々しい音が聞こえたと思ったら、急に静かになる。


お手洗いの隣には赤いドアがあって、多分美容師が休憩したりカラー剤なんかを作る部屋なんだろうなと見遣っていたら、勢いよくドアが開いた。


「……」
「……」


モモだ。
思いっきり寝起きだと分かる、ジャージ姿のモモだ。


「ご……ごめん……」


ドアを開けた状態で固まっていたモモは、ドア枠を掴んでいた自分の手を支えにダランと頭を下げて、やっちまった感を全身から醸し出している。


「~っ! ちょっと、もーっ!!」


小声ながら、ひとりで美容院に来ることがどれほど緊張したかを訴えたいあまり、モモの腕をガシッと掴んだ。


バカ!とか、今起きたの!?とか、今日に限って何寝坊してんの!?とか、言いたいことは山ほど浮かんできたのにどれも口から出てこなくて。


「ごめん、ホントごめん」


何でか泣きそうになってるあたしを見て、片手で口を覆うモモは繰り返し謝った。


「あら。やっと起きたの? 寶」

「「……」」

「ていうかそんな格好で店出てこないでよ。もー……ダラしない子ね」


現われたのはもちろんモモのお母さんで、言葉通り呆れた表情を見せる。


「ちょ、っと……何を普通に……」

「仕事してるのかって? 当たり前でしょお母さん忙しいんだから」

「そうじゃなくて……」

「何? 起こせよって言いたいの? 今まで起こしたことないのに? ハッ! 生意気!」


っえ――!! 出来れば起こしてあげてほしかったデス!!


……怖い。何か急にモモのお母さんが怖く見えてきた。


そんなあたしに気付いたのかモモのお母さんは「あれ?」と言って、少し黙るとモモへ視線を移す。