それでも君と、はじめての恋を



椅子に腰掛けると、鏡に映る牧野さんはあたしの髪を触りながら話を続けた。


「3ヵ月くらい前からかな? まだ連れてこない、まだ連れてこないってずっと店長が言ってるものだから、私たち従業員も気になっちゃって」

「……」

「寶くんが店に来るたび、私たちも彼女見たい見たいって騒いでたんですよ。そしたら昨日、ついに渉ちゃんが来るー!ってね。今日休みの従業員は悔しがってましたよ」

「あははは……」


そんなことになっていたなんて、聞いてないんですけど……!


「色は変えなくていいんですよね? ブリーチになりますけど大丈夫ですか?」

「あ、はい! 根元だけ同じ色にしてもらえれば」

「少々お待ち下さいね」


タオルとケープを首に巻かれたあと、牧野さんはそう言って席から離れていく。


ふぅ、と小さく息を吐いてから鏡に映る自分を見つめた。


昨晩の内にエクステを取ってきた髪はストレートで、鎖骨あたりまでしか長さがなかった。


やっぱりロングの巻き髪じゃない自分はいつもと印象が違うせいか、それとも「楽しみにしてた」と言われる自分がいつもと違うことが気になるのか、そわそわとして落ち着かない。


いや、顔はいつも通りなんだし、たかが髪型なんだけど……。


彼女を見たいと思っていた相手が美容師だから、余計に気になるのかもしれない。


ああ……黒い根元まで恥ずかしくなってきた。早く染めてエクステ付けたい。胸下まで伸びた髪を、巻きたい。


いつもと違う自分は何だか無防備で、盾を失ったみたいに気を小さくさせた。



「――お待たせしました。さっそく始めますね、失礼します」


黒いカップに入ったブリーチ剤を持ってきた牧野さんはあたしの両耳にイヤーキャップを付けると、椅子に腰掛ける。


「髪細いですねー。……ちょっと突っ込んだ話してもいいですか? もちろん黙秘権ありで」


ブロッキングされた髪の根元にブリーチ剤が塗られていくのを感じながら、持っていた雑誌から鏡に視線を移した。


「はい……何ですか?」

「あの寶くんをどうやって射止めたのか、とか」

「え!?」