それでも君と、はじめての恋を



「いらっしゃい、渉ちゃん!」


ゴクリと生唾を飲んだ瞬間、目の前で立ち止まった女性は元気な声とは裏腹に優しく目を細めた。


「こ、こんにちは! 初めまして……っ!」


名前を呼ばれたことでモモのお母さんだと確信したあたしは頭を下げて、すぐに上げる。


「やぁねぇ、そんな緊張しなくてもいいのよ?」

「いえ、すみません……」


無理です。今にも心臓が口からコンニチハしそうです。


「まあ、緊張してる子の方が可愛いわよね」


フフッと笑ったモモのお母さんはどことなく目元がモモに似ていて、黒髪のベリーショートがすごく似合っていた。


「髪は長いって聞いてたんだけど、エクステ取ってきてくれたのね。私まだ担当してるお客さんがいるから、またあとでお話ししましょ。マキちゃん、渉ちゃん先にリタッチだからお願いね」

「はい」


テキパキと話したあと手を振って去るお母さんに慌てて頭を下げると、残された美容師が笑顔を向けてくる。


「本日担当させていただきます牧野です。渉ちゃん、でいいかな? よろしくね」

「あ、はいっ! よろしくお願いしますっ」

「お荷物お預かりしますね。貴重品などお持ちになりますか?」

「えと、……お願いします」


携帯だけ手に鞄を預けると、牧野さんは鞄をロッカーに入れたあと「ご案内します」と微笑んで歩き出す。


後に続くと、通り過ぎるたびに男女関係なく美容師の視線を感じた。


なんか、すごいチラチラ見られてる……。


「みんな、渉ちゃんが来るの楽しみにしてたんですよ」

「え。……あの、あたしが誰だか……」


知ってるんですか?と口にすることなく目で訴えると、座りやすいように椅子を回してくれた牧野さんは緩やかに笑う。


「知ってますよ。寶くんに彼女ができたって、店長が大騒ぎしてましたから」


そ、そんなことがあったんデスカ……。