「あたしってモモのこと知ってるようで知らない……」
「拗ねた」
「拗ねたねぇ~」
困った顔をするモモの足に軽い蹴りをいれてやろうかと思う。だけど結局そんなことはしないまま、ブラブラと自分の足を揺らした。
「まぁまぁ、練習台で良ければって言ってくれたんだからいいじゃ~ん。つまりタダってことでしょ?」
「初めてモモの家に行くのにそんなのヤダ!」
だって、家が美容院ってことはモモの親御さんが経営してるんでしょ!?
モモの彼女です初めましてーって言ったその日にタダでエクステ付けてもらうとか! 図々しすぎる!
「無理! モモの家には行きたいけど、髪はいい!」
「……そんな気にすることでも」
「あたしが気にするのっ!」
「こうなると聞かないよ。案外頑固だから」
葵の溜め息混じりの言葉にモモは眉を寄せて、どうしたもんかなと言うように首裏を掻く。
モモの家には行きたい。ていうか絶対行く。
練習台で良ければって気遣ってくれたのも、本当は嬉しい。
でも、彼女だからって優遇してもらうには、あたしはモモの親御さんと面識がなさすぎる。
「ていうか……」
はぁ、とモモが吐いた溜め息に嫌な緊張を覚えたけど、聞こえた言葉は予想外のものだった。
「……え?」
「……だから、連れてこいって。母親がうるさい」
母親、って……とんでもなく料理が下手な……いやいや、え?
「湊も会いたがってる」
「……」
それは、もちろんあたしも会いたいけど……。
信じ切れてないあたしに気付いたのか、モモは携帯を取り出して操作すると1通の受信メールを見せてきた。
「……これ、お母さん?」
「そう」
モモはメールを覗こうとした純と葵に見られる前に、サッと携帯をポケットにしまう。
「何だよ見せろよぉ~!」
純が腕に張り付いても、表情を変えることなくモモはあたしを見下ろしていた。



