「……男子も恋バナとかするんだ」
「桃井の場合はあまりにもしつこい純に折れたって感じだけど」
相談したわけじゃないんだろうな……。
でも、バレて、けしかけられて、それでもこの部屋に来たってことは……。
「見周りにきた安部ちゃんに怒られる、損な役割させられてるのかと思ってた」
カーッと赤くなりながら告げれば、「それもある」と葵は笑う。
「担任来るの早すぎたけどね。ま、なかなかいい時間を過ごせたでしょ」
キスなんて自然とするものでしょと言ってたくせに、何て生き生きとしたどや顔なの、葵。
……まぁ、その通りだからいいんだけどさ。
結果葵たちの計画通りにはいかなかったんだから、おあいこさま?
「たっだいま――!」
「カップル誕生したぞー!」
「渉と桃井寶は!?」
「どうなったー!? 渉ーっ!」
男女の声と複数の足音が部屋を突き抜けて、現れた十数名のクラスメイトは安部ちゃんの姿を見つけるなり「ゲッ!」と言い放った。
「……おう。お前ら、それなりの覚悟は出来ているんだろうなぁ?」
仁王立ちで部屋の中心に君臨する安部ちゃんに、クラスメイトはジリジリと後ずさる。
「どこで何してたぁああああ!!」
「ぎゃーっ! 逃げろ――っ!!」
我先にと足音荒く部屋を出て行くみんなと、堪忍袋の緒が切れた安部ちゃんの叫びは多分、旅館中に轟いたに違いない。
……何かもう、めちゃくちゃな夜だなぁ。
呑気なことを考えていると、4人しかいなくなった部屋に森くんが顔を出した。
「あ、無事だったなー。良かった」
「無事なのは森だけでしょ~。俺なんか安部ちゃんに放り投げられるし、桃井には座布団投げられるし、最悪ぅ」
「はは! それは災難だったなー」
ひとりだけ安部ちゃんの怒りから逃れてるとか、森くんつわものだな。とりあえず純だけは明日どついておこう。
森くんが来たことでモモは部屋に戻るかもしれないと、見送るために立ち上がったあたしはチラリとモモの背中を見つめる。