「……何」
そう聞いておきながら、なんだよ、笑うなよ、と言ってるみたいだよ。
「なんでもない、けど……」
「……っ!」
更に強くモモに抱きつけば予想通り。肩を跳ねさせて反応したモモに、あたしは口の端を上げた。
ギロリと睨まれたって、頬が赤らんでいたらちっとも怖くない。
こんなモモ、きっと誰も知らない。
あたしにしか、見られない。
「もう1回チャレンジする?」
限界まで見開かれたモモの目は、何の再挑戦かに気付いている証拠だった。
「……や、……」
ジッと見上げてくるあたしに言葉を濁して、そろりと視線を逸らすモモは言うんだ。
ああもう、本当に勘弁してくれ、なんて思いながら。
「2班いるかーっ!?」
「「――!!」」
安部ちゃんの声にあたしとモモは猛スピードで離れると、ドアの開く音がやけに大きく響いた。
ドッ、ドッ、と多分今日1番の拍動の大きさに胸を押さえていると。
「お前ら何して」
「しぃー……!」
「はあ?」
「しーっ!」
「大体なんで池田が女子部屋に……」
「ちょ、声デカ、バレる……!」
「覗きかお前ぇええええ!!!!」
「ぎゃぁあああああああ!!」
――今、池田さんちの純くんの悲鳴が聞こえたんだけど……?
ドッタンバッタンと廊下から聞こえる音と共に、そこで騒いでる人たちの声も大きくなる。
「逃げんな! 謝れ、オラッ!」
「何で俺だけぇ!? 葵だって、イッタァ!」
「異性の部屋には行き来禁止だっつっただろーが!」
スパーン!と襖が開いたと思ったら、畳の上に放り出されて現われたのは紛れもなく純だった。
「オイ! お前ら覗かれ……」
足音荒く部屋に入ってきた安部ちゃんは、あたしとモモの姿を確認すると目を見張る。
や、やばい……かも。



