「やっぱ桃井くんじゃーん! ひっさしぶり!」
そこに立っていたのは多分店員で、20代後半に見える男性は笑顔を浮かべながら近付いてきた。
「1ヵ月ぶりくらい? 髪切ってて一瞬誰だか分かんなかったわーっ」
軽く頭を下げたモモを見る限り、馴染みの店員さんかな。
ほぼ無意識に見ていると店員さんもあたしに視線を移して、そのまま繋がれたふたりの手に目を見開いた。
「彼女!?」
ブッ!と吹き出しそうになったのを寸でのところで堪えて、恐る恐るモモを見上げる。
「うっわマジでか! マジで彼女!? 何ちょっと可愛いじゃん!」
「……」
「つーかそんな無愛想なのによく彼女できたなほんとに!」
「店長……」
あ、この人店長さんなんだ、と理解していると押され気味のモモからあたしに向き直った店長。
「どーもどーも、ここの店長です。桃井くんにはいつもご贔屓していただいてますーっ」
「あ、こんにちは。えと、渉です……」
すっかり困り切ってるモモをチラチラ見ながら答えると、「渉ちゃんねー!」と店長は満面の笑顔を見せる。
「いやいや、可愛いねーっ。ところでどういう経緯で付き合ったの? いつも何してんの? 学校でも桃井くんってこんな感じ?」
ものすごい質問攻めに戸惑っていると、モモが「店長」と牽制するように言った。
「何だよー。いいじゃん、聞かせてくれたって」
店長が子供みたいに拗ねた顔をするとモモは眉根を寄せて、どうやら拒否しているらしい。
その間にも店長は「聞かせろ」と連発していて、あたしはモモにこんな知り合いがいたんだなと少し意外に思っていた。
でも何となく、店長はモモがどんな人か分かってるんだろうなと思う。
「今日の桃井くん頑固だなー。いつも最終的には答えてくれんのにっ!」
「……」
「はっはーん。あれか、彼女の前だと恥ずかしいのか? んん?」
ニヤニヤと笑いだした店長にモモはフイと視線を逸らして、だんまりを決め込む。
……何か、あたしを相手にしてるモモを客観的に見てる気分。



