それでも君と、はじめての恋を



「何か、勉強会のこと思い出した」


喉の渇きと空腹を満たし、駅構内にあるマックから離れて呟くとモモが視線をよこす。


「説明すごい分かりやすかったなーとか、字が綺麗だったなーとか……あの頃あたし、桃井くんって呼んでたよね」


懐かしくなって笑いながら言うと「あぁ……」と思い出したように、少し可笑しそうな声。


手がゴツゴツしてるなぁとか好きな匂いの香水だなぁとか、テーブル狭いなぁとか……思ってたんだよね。


懐かしいけど、そんなに昔のことじゃない気がするのはあの日が特別だったからかもしれない。


好きなんだって気付いて、メアド交換するだけなのに緊張でどうにかなってしまいそうで、だけど距離は縮めたくて。


「モモって呼んでいい? とか、あの時あたし凄いテンパッてたよね」


思い出すと恥ずかしくなって、行き交う人達へ視線を泳がせる。


片思いの時は必死だったな。
今も何かある度に必死だけど。


「……て」

「え?」


聞きとれなかった言葉に隣を見上げると、モモがあたしの顔を覗くようにしていたからドキリとした。


「モモなんて呼ぶの、渉だけだよ」


そう言って微笑んだモモにギュッと胸が痛む。


何を思い出して、何を感じて、そんな風に笑ってくれるんだろう。