それでも君と、はじめての恋を



いたって普通の1日だった。


あっという間に放課後になり、教室から担任が出て行くのを目で追いながら、そのまま隣のモモに視線を移す。


何て言おう。いや、好きとかそういうことじゃなくて。


帰る? 帰ろ? 帰らない? そろそろ行く? どこに? 駅でしょ?


「わふ!」

「……」


モモが急にあたしを見るから、変な声出た……。

すんごい不思議そうな顔して見てるよ……コイツ今わふって言った?って顔だよ。


「い、犬のモノマネ」

って何だ!! スルーすれば良かった! 知らないフリして何か?って顔すれば良かった!


「……うちの犬にちょっと似てた」


そんな真顔のフォローいらない……って。


「モモんち犬飼ってるの?」

「うん。帰る?」


もっと話を拡げてほしかったしサラッと帰る?って言われたあたしの立場のなさ! すごい!


そんな彼女の気持ちなんてお構いなしにモモは立ち上がって、カバンを手に持つ。


椅子に座ったまま見上げてるあたしにモモは帰らないのかと目で訴えてきて、どうしようかなと悩んだ。


片手を差し出して、引っ張って?とか…………無理でした! 修行して出直してきます!


ガタンッと音を立てて椅子から立ち上がったあたしに、モモとは別の視線。


「報告楽しみにしてる」


口の端を上げる葵にかけられるプレッシャーと言ったらもう。固唾を飲むしかない。