「モーモッ」
近付いて声を掛けると、すぐに振り向いて「渉」と口にしてくれた。
呼ぶと、高確率であたしの名前を口にしてくる。
表情がないぶん声の柔らかさが際立つから、慣れるまでだいぶ時間がかかったりした。
「振り向くだけでいいのに……」
慣れたとか嘘だった。
驚くほど胸がきゅん通り越してギュンッ!ってなった。
「調子悪い?」
「え? ああ、違う違う。胸がギュンッて……うん、何でもない」
胸を押さえていた手を左右に振ると、モモは不思議そうな顔をするだけ。
「ギュン?」
恥ずかしいから突っ込まなくていいのに!
「あのさぁ、モモ」
無理やり話題を変えたあたしにモモは不服そうな顔をするけど、ちゃんと付き合ってくれる。
「えぇと……例えばさ、絡まれるとするじゃん」
「……? うん」
話題変えるの下手でごめんなさい。
「それで、急に後ろから奇襲かけられたらどうする?」
何でいきなりそんな話?って思われてるのが分かるけど、引っ込みがつかないから続けた。
「例えば、後ろから抱き……タックルされたり?」
苦笑してると自分で分かるほどの笑みで聞くと、モモは少し考えているみたい。
通学路から校舎が見えて、校門を通り過ぎるとモモは口を開いた。
「背負い投げる」
あっぶない!!
抱き付かなくて良かった――!! 公衆の面前で彼氏に背負い投げされたら心折れるよね!



