言わないと許さない。そんな意味を込めて見つめると、モモは観念したのか空いている前の席を見ながら口を開いた。
「教科書、借りに行った時」
「……ん? ああ、古典の」
……クラスメイトの話で、あたしがモモに近付いたのは顔狙いだと勘違いされた時だよね?
「……あれホントは、借りに行ったんじゃない」
「え? じゃあ何しに来たの?」
「逢いに」
「誰に?」
そう問うと、モモはあたしに人差し指を向ける。
……あたしに、逢いに?
それだけで十分嬉しいのに、モモは再び前の座席に視線を移して、続ける。
「別に、用はなかったけど……」
「……」
それは……凄く嬉しいんですが!?
モモは決して柔らかくはない座席に深々と座って、ズボンのポケットに両手を突っ込んだ。



