「……古典の教科書、借りに」
どうしよう。
聞かれてた? 聞こえてた?
「ああ、はいはい。何、当たんの? 俺が貸してあげるから~ちょい待ってね」
どうしよう、聞こえてたら。でも、モモはそんな風に聞こえなかったかもしれない。ただ、あたしに好かれてるのかと――……。
「はいど~ぞっ! 今日7組古典ないから、返すのいつでもいいからぁ」
「……ありがと」
「ちょっと、渉っ」
葵の声に顔を上げると、モモは既に窓の外にはいなくて。
誤解されてる……。そう、思った。
いくら無口でも、逢えば必ず一言でも話しかけてくれてたんだもん。
「……っモモ!」
待って、待って。
これ以上、距離を持ちたくない。
「モモ……あの……」
教室を飛び出して追い掛けるとモモは立ち止まる。振り向いては、くれないけれど。
「あの、今のは……違うの、誤解で……」
何がどう誤解なのか言わなきゃいけないのに、声が震える。どう言えばいいのか分からない。
どこから聞こえてた? あたしと同じように聞こえた? 違う、違うのに。
あたしは本気で――…。



