「あ~ハイハイ! 渉の飲み物ねぇ~。でも何で桃井? 葵は?」
「自販機の前で逢って、職員室に用あるからって」
葵のバカー!! 嘘だよそれ! 気付いてモモ!
「ははぁん。なるほどねぇ~……ほら渉、葵の代わりに桃井が持ってきてくれた、ぞっ!」
「ぎゃぁああああ!!」
無理やり純に鏡を取り上げられて、あたしは慌てて両手で顔を隠す。
純のボケ! 女子に刺されろ! それかハゲろ!
「……何事」
きっと驚いたんであろうモモが言うと、純がケラケラと笑う。
「渉の奴今日寝坊して、全力電車に乗ってきたんだよ~。ほら、快速の。で、メイクが中途半端だから顔見られたくないんだってぇ~」
……ああ、ほら。
無言っていうか、無反応だよねモモ。
両手の指を開いて少しだけ顔を覗かせると、モモと目が合った。パッと隙間をふさげば、間を置いてから「矢吹」と呼ぶ声。
「……おはよう」
もう一度指を開き、あたしのくぐもった挨拶にモモは「うん」と答える。
……嬉しいんだよ。朝から会えて、嬉しいけど。
「おつかれ」
ちゃんとメイクが終わってから、逢いたかったなぁ……。



