ラブ☆ヴォイス

「…向坂の方がまだマシかも。って言ったら向坂は怒るかもしれないけど。」

「え…?」

「あたし、彼氏に浮気されたの。
それで昨日別れて、今日この顔ってわけ。」


そこまで一気に、少し早口に綾瀬さんが言った。


「浮気…ですか?」

「そ。あたしが彼氏の家に昨日行ったら玄関でキスしてて。
…バカよね、やるなら完全犯罪にしてほしかったのに。」


自重気味にそう呟く綾瀬さんがあまりにも痛々しくて、それ以上言葉を聞きたくなかったけれど、綾瀬さんはそのまま言葉を続けた。


「今思えば、顔、10発くらい殴ってくれば良かったかなって。
でもそれ見た瞬間はそんなこと思いつかないくらい…なんか…もう言葉…っ…出てこなくてっ…。だけど…。」


綾瀬さんの言葉が少しずつ震え始める。
…泣いて…いる。


「彼氏の弁解を聞く気にもなれなくて。
だって女の子、あたしとは…全然…違って…女の子らしい感じの子でっ…。
それに彼氏も…ありえないくらい優しく笑ってたから…。
だからあたし…電話、で…言ったの…。」


声が出せない。
…俺の方がマシだと言われても、怒りなんて全く湧いてこない。
むしろ、俺の青臭い話を嫌な顔一つせずに聞いてくれた綾瀬さんに感謝すべきだ。


「ごめん、無理。別れてって。」


こんなうるさい店内で、微かにそう、俺だけにはちゃんと聞こえた。