どこからか熱がやってきて、身体中をかぁーっと熱くする。ベッドの上で暴れても、どれだけ抱き枕を抱きしめても収まらない。
 顔が一番熱い。今、あっくんは確実に言ったもん。…あたしの名前、『ユイ』って。犬じゃないけれど、一応っていうか絶対乙女だけどそれでも言った。間違いなく、『ユイ』という響き。
 熱い身体をなんとか抑えて、机に向かう。小さいメモ帳を一枚だけ千切って、ペンを走らせる。そして少し可愛めの袋にのど飴とメモを入れて家を出た。

―――向かうは隣の家。
いないのは知っている。ミドソラは生放送だ。今あっくんは収録している。

 ドアにかけておけばおそらく、いや絶対に気付くはずだ。あっくんが好きなのど飴ではないかもしれないけれど。それでも声は変だと思ったから。心配だから。

 ドアにそっと、袋を掛ける。

 どうかあっくんが風邪なんかひいたりしませんように。そっと想いだけを込める。そしてまた自分の部屋に戻った。戻った時にはラジオが終わりの時間で、空野さんの陽気な声で番組が締めくくられた。終わった途端に睡魔に襲われて、そのまま眠りに落ちていった。