* * *

必要なんて、ない。それを垣間見た気がした。

「ねぇっ…あの人かっこいいよ!」
「ていうか…あれって御堂明博じゃない?」
「えーそれ誰?」
「ハニメロの先生の声優さんっ!」
「えぇーマジで?」

 女の声が妙に耳触りに感じた。それくらいには苛立っていたのだろう。

「…御堂、バレてるし。」
「別にいい。困るもんでもねぇだろ。つーかすげぇな、意外と。知名度ってやつ?」
「んなこと言ってる場合?」
「あのっ…御堂…明博さんですよね…?」

 話し掛けてくるのかよ。そう思ってしまうからこそ、いつもならばできている営業スマイルがすぐには出てこない。

「…まぁ…はい。」
「きゃー!あのっ…ハニメロ見てます!すっごいかっこいいです!」
「…あ、ありがとうございます。」
「あ…握手して下さいっ!」
「あ…はい。」

 目の前の女二人と握手をする。声優に詳しいらしい女が達也の顔を見て顔色を変える。

「えっ?空野さん?空野達也さんですか?」
「うわー俺も有名人ー!」
「握手して下さいっ!」
「喜んでー!」