「きゃあ!」

 祥あ悲鳴をあげた。祥の服にも少しかかってしまった。萱原の髪を滴るアイスコーヒーはポタポタと音を立てて下へ下へと落ちていく。

「随分威勢がいいんだね。参ったなぁ…こんなことされるなんて。」
「あっ…あなたが酷いことばっかり言うから!アイスコーヒーかけたのはあたしが悪いけど、でも、あなたはかけられちゃうくらい悪いこと言ってる!」

 …やばい。頭の中が怒りでいっぱいになって、言葉が上手くまとまってくれない。それでも止まりはしない。言葉が、止まらない。

「あっくんの恋は、祥さんの気を楽にするためにあるんじゃない。」

 自分の声とは思えないほどに低い声。それに一番驚いているのは間違いなく唯だった。

「…っ…あ、あたしは…全然何にも知らないよ。あっくんに訊きたかったけど訊けなかった。あの日、あんなに苦しそうな顔をしてたあっくんにあれ以上苦しそうな顔、してほしくなかったから。どうして…あんな顔してたあっくんを見てるのに、そんな酷いこと言えるの?そんな身勝手なことばっかり言えるの?」

 萱原も祥も押し黙ったままだ。それに余計に腹が立つ。

「あっくんがもし祥さんに未練があるとしても、それにあなたは全然関係ない。祥さんとあっくんの問題だから。…あ…あたしが言いたいのは、これ、だけ…です。」

 唯は財布から1000円札を抜き取ってテーブルに置いた。視線が痛すぎて、足早に店を出た。
 …いつの間にか、唯の目からは涙が零れ落ちていた。