どれだけの間、立ち尽くしていたのだろう。たくさんの人が通り過ぎる中で、明博も唯も動けないでいた。しかし、先に動いたのは唯だった。

「あっくん、お仕事終わったの?」
「あ…まぁな。」
「こんな時間にお仕事終わっちゃうこともあるんだねー。」
「不規則な仕事だからな。」
「そっかぁー…じゃあもう帰るところ?」
「ああ。」
「じゃあさ、一緒に帰ろうよ?」
「…大体お前は一体なんでこんなとこにいるんだよ。」
「え?あ、この近くに大きいプールあるでしょ?あそこでバイトなんだけど、今日ホントはバイトないのに来ちゃって。で、帰るだけじゃつまんないからブラブラしてたらあっくん見つけて!あたしってラッキーな女の子だよね?こんな人混みの中であっくんのこと見つけちゃうなんて!」

 ただ素直に笑顔を向けてくる、今隣にいる唯。無理して笑っているのがバレバレだ。無理は本当に似合わない。似合わない表情をさせているのは間違いなく自分だというのに。
 そんな罪悪感からだろうか。思考よりも先に言葉が出てしまったのは。それも本心に近い言葉が。

「無理して笑うな。」
「え?」
「顔、引きつってる。」

 そう指摘した途端、唯の顔はぐにゃっと歪んだ。泣くなよ、こんな大通りで。そう思いはしたけれど、泣かせたのは誰かと考えた瞬間に何も言えなくなった。