「でもさすがに何か食べるだろ?
何が食べたい?」

あたしの方を振り返ってそういう彼。
次から次へとあたしが想像もしていなかった言葉が出てきて、あたしは目を丸くした。


『なんでそんなに…』


あたしはそう言おうとして思いだした。
喉に手を当てる。
あたしは『話せない』んだった…
正確にいえば声が出ない。

そんなあたしの様子を察してか、

「話せないのか?」

という言葉が返ってくる。


それを否定することはできない。
だから小さく頷いた。


「そっか…でも俺の声は聞こえるんだな。」


そう。自分の声は出ないけど、音がない世界に住んでるわけじゃない。
すっと私の前に差し出される紙とペン。


「何が食べたい?
字は書けるだろ?」


また…
優しい声があたしを包む。