「この傷…。」

彼女は腕についた切り傷を指差した。
その傷はもうくっついてはいるが、傷痕は残っていた。

「これは父親につけられた傷。
先生と出会ったときにほっぺにあった殴られた痕…
覚えてる?」

「ああ。」

「あれは彼氏に殴られたの。」

彼女はどうってことないことを言うかのように淡々と話す。

その姿が俺には苦しかった。


「前にあたし、先生に言ったよね。
先生が人生の中で一番優しい人間だって。」

「ああ。覚えてる。」

「あれ、本当に本当。嘘じゃないよ。」

「……。」

俺は彼女に特別優しくしたことなんてない。
まぁいじめたこともないけど。

最初から違和感はあった。
彼女は「優しさ」というものに異常なくらい反応した。