たとえばあなたが




千晶の頭の中は、パニック寸前だった。

想像していた状況と現実が、あまりにも違いすぎる。

あんなにも切望していた、復讐相手との対面だというのに。



目の前にいるのは恋人で、だけどまるで別人で…―



思考が定まらず、目の前の景色が回っている。

千晶は目を閉じて、じっと目眩がおさまるのを待った。



「千晶」

小山の名を騙っていた松田の呼びかけにも、答えなかった。

けれど松田は、気に留めることなく続けた。

「俺はキミのことを殺そうと思って、この街に戻って来た」

近くに気配を感じた千晶が目を開けると、松田は千晶の正面であぐらをかいていた。

「でもやめたんだ」

松田はそう言って、千晶の傍らの小さな紙袋を指で示した。



「それで、俺を殺せばいい」