「どうしてって、千晶」
そう言いながら、小山がイヤな笑いを見せたのを千晶は見た。
今まで、小山がそんな顔をするのは見たことがない。
「だって今さら取り乱したって仕方ないじゃないか」
人をバカにするような、嘲るような笑いだった。
「徹…」
「俺は小山徹じゃないよ。さっき千晶も言ったじゃないか、松田って」
「…松田…」
「松田聡。覚えてないかな。キミが小さい頃、何度か遊んだことがあるよ」
「…知らない」
「なんだ、残念だなぁ。会うたびに松田のお兄ちゃんって飛びついてきたキミは、本当にかわいかったよ」
「……」
「いつもあの家で一緒に、甘い紅茶を飲んだじゃないか。本当に覚えてないのかい」
千晶は、今度こそ気を失いそうなほどの目眩に襲われた。


