ジブンデマイタタネダ



ジブンデエランダミチダ



どこからか、そんな声が聞こえた。



(違う…違う…!)

こんな結末は望んでいなかった。

今目の前にいるのは、知らない人のはずだった。

初めて見る、名前も知らない、犯罪者然とした、憎らしい人のはずだった。



決して、恋人なんかじゃないはずだった。

なのに…―

「千晶…ごめん」

抱えた頭の隙間から、ウッドベースのように低くて響きのいい、聞き慣れた声が千晶の耳に入り込んだ。



少しの沈黙の後、カタリと椅子が動く音がした。



足音が千晶の脇で止まり、大きな手がうずくまる千晶の肩に触れた。

びくりと体を震わせる千晶に、

「俺だよ」

と言ったのは崇文だった。



「大丈夫か」

崇文の問いかけに、千晶は首を横に振った。

今はまだ、顔を上げたくない。



崇文は、頑なにうずくまる千晶に、

「俺、ちょっと電話してくるから」

と言い残し、部屋を出て行った。