崇文のやさしい手の感触は、昔から変わらない。 「千晶」 「ん?」 「やめても、いいんだぞ」 「え?」 顔を上げると、崇文が哀れみを含んだ目で千晶を見ていた。 「…どうして…」 「お前、小山さんと一緒にいたんだろ?だったら過去なんて忘れて、幸せになればいいじゃないか」 (幸せに…なればいい…) 『どんな人間にだって幸せになる権利はある』…― 小山の言葉が頭をよぎった。 クリスマス前のデートの夜、不安で押しつぶされそうになっていた千晶に、小山は力強く言った。