「…さん、…らさん」 遠くから、誰かが呼んでいる声が聞こえる。 「…きむらさん」 …誰? 心地よく響く、低い声。 どこかで聞いたことがあるような…― 「木村さん」 「…っ!……何時?!」 千晶は、勢いよく上半身を起こした。 壁の掛け時計は、午後7時半を示している。 「うそっ!そんなに?!」 『あと5分』が、約1時間半になってしまった。 「あんまりよく寝てたから、起こすのも気が引けて」 背後の声に振り返ると、小山がやさしく微笑んで立っていた。