たとえばあなたが




午後5時45分。

おさまらない怒りで頬を紅潮させたまま、千晶は営業部の部屋の扉を開けた。



「千晶!遅かったね、大丈夫だった?」

萌をはじめ、営業部の面々が次々に心配の言葉を口にする。

(ああ…なごむ…)

敵地から戻った武士の気持ちはこんな感じだろうか、と千晶は怒りで火照った頭で思った。



「萌ちゃん、今日はほんとにありがとう」

あらためて代役の礼を言うと、萌は、

「平気平気、気にしないで。会議もちゃんと済んだから」

と笑顔を見せてくれた。



やはり疲れたときには萌の笑顔に限る。



「小山さんは?」

小山にも、きちんとお詫びとお礼を言わなければ。

「なんかね、来客みたいよ」

「来客?珍しいのね。じゃあ、後でいいか」



千晶は、疲れた体を自席に落ち着かせた。



(…まったく、とんだクレーマーだったな)

来週入荷する絵を引き渡したら、それが最後。

もうあの会社の担当はしない、と固く誓った。