たとえばあなたが




礼子が言うには、絵はすぐに入荷すると購入者に伝えてあるが、まだ届かないために、購入者からクレームが相次いでいると言う。



『だから、困るんですぅ』

「……」



千晶はあの日、40分もかかって礼子に説明をした。

人気作家につき在庫は出し尽くしたこと、入荷には数週間かかること、発注は会期後にまとめてすること…―

それらをすべて忘れてしまったとは言わせない。



あまりにもバカバカしいクレームに、千晶は呆れてデスクに突っ伏した。

そのままの姿勢で、どれくらい延々続くクレームを聞いただろう。

ふと顔を上げて時計を見たときには、始業まであと10分を切っていた。



(ああ~…朝ごはん…)



泣きたい気持ちで入り口に目をやると、ちょうど出勤してきた萌と目が合った。



(萌ちゃ~ん、助けて…)



今すぐにでも駆け寄って愚痴を言いまくりたい気分だけれど、電話の向こうでは、まだ礼子が雄たけびをあげていた。