アリスズ


 イデアメリトスの太陽──この国、唯一と言っていい宗教的存在のいる都。

 菊は、ついに都に足を踏み入れた。

 門をくぐる時、一緒にいたのはトーと──ダイ。

 菊とトーは、徒歩で旅をしてきたのだ。

 御曹司は、彼らのために荷馬車を準備しようとしたが、丁重に断った。

 元々、都へは行くつもりだったのだ。

 当初の予定通り、徒歩で続ければいいではないか。

 その奔放さは、どうやら御曹司を困らせたようだ。

 そこで。

 彼は、ダイを徒歩で同行させることにしたのだ。

 菊は、その判断にニヤリとした。

 これならば、護衛兼案内と言う名の元に二人を監視出来るし、菊もダイに恥をかかせないだろうと読まれたのだ。

 元々、逃げるつもりはないので、彼女にとってはどっちでもいいのだが。

 不思議な三人旅だった。

 トーは、しゃべりたい時に勝手にしゃべる男だし、ダイは元々余りしゃべらない。

 菊は、この方向性の違う二人を、無理につなげようとはしなかった。

 まさに、適当にほったらかし。

 新しい町についてトーが歌いだせば、そこに数日とどまるが、菊は好き勝手に歩きまわった。

 ダイは、監視をしているんだか歌を聞いているんだか、トーの歌うところにいつもいて。

 トーという男が、一体何者なのか、ダイなりに知ろうとしたのかもしれない。

 そんな奇妙な旅も、ついに終わる。

「では、宮殿へ…」

 ダイは、そのまま目的地へ連れて行こうとしたのだ。

 だが。

 トーは、視線を巡らせていた。

 目で見ながらも、その両の耳で音を拾っている動き。

 そして、すたすたとダイの望む方向とは、違う方へと歩き出すのである。

「宮殿は…歌の後だろうな」

 ダイを見上げると、彼はさすがに渋い顔をした。

 都まで来ていながら、宮殿を無視する形はさすがにまずいのだろう。

「ああ、そうだ…いい方法がある」

 菊は、ふと思いついたことを、ダイに言うことにした。

「その、イデアメリトスの太陽とやらが、町に歌を聞きにくればいいじゃないか」

 我ながら、名案だったが──ダイにはそうではなかったようだ。